整形外科について
整形外科は主に骨・筋肉・関節の病気を扱います。生まれつき持った異常(先天的な異常)や幼少期から発症するもの、犬種や猫種によって特徴的な病気があります。そのため普段から、歩き方や段差の上り下りなどを観察しておくことで異常を早期に発見できます。
整形外科の病気は早期に診断及び治療を行うことで、病変の経時変化、悪化を防ぎ機能回復までの時間を短縮することが可能です。犬や猫のような小動物でよく発生する病気としては、骨折のほか、脱臼をはじめとする関節系の疾患、椎間板ヘルニアなど神経系の疾患です。 気になる症状があれば当院へご相談にお越しください。
代表的な症例
膝蓋骨脱臼
前十字靭帯断裂
骨折
関節リウマチ
変形性関節症
椎間板ヘルニア
よくある症例と原因について
膝蓋骨脱臼
原因と症状
膝蓋骨(膝にある皿のような骨)が正常な位置から内側、または外側に外れてしまう(脱臼した状態)事をいいます。先天的に膝関節や膝関節周囲の形態に異常がある場合や、後天的に外傷や骨に関する栄養障害などがあることが原因となります。
軽度では、「片足をケンケンするようになった。」「びっこを引くんだけど、しばらくすると元に戻る。」等の症状が見られます。 膝蓋骨を英語でパテラということから、膝蓋骨脱臼を「パテラ」とも呼びます。
小型犬では、膝蓋骨の内側への脱臼(内方脱臼)が多くみられます。大型犬では内方脱臼もみられますが、膝蓋骨の外側への脱臼(外方脱臼)が比較的多くみられます。 猫の膝蓋骨脱臼では内方脱臼が多いようですが、猫の膝蓋骨脱臼は犬ほど一般的ではありません。
多い犬種
ポメラニアン
トイ・プードル
マルチーズ
ヨークシャー・テリア
チワワ
ダックスフンド
柴犬 など
治療法
初期の場合は運動制限や抗炎症剤、サプリメントなどを用いて症状の緩和が認められる場合もあります。一方で、悪化して日常生活に影響が出てくる場合の根本的な治療は外科手術となります。
犬の症状やグレードなどによって、手術適期や手術方法は異なります。
前十字靭帯断裂
原因と症状
年齢を重ねると、加齢に伴う靱帯組織の変性や小さな損傷の繰り返しが影響して前十字靱帯の強度が下がります。その状況で運動等の力学的ストレスが膝に加わると、強度が下がった靱帯は容易に損傷してしまいます。その為、散歩や階段を上るといった軽微な運動が思わぬ状況を引き起こしてしまうことがあります。
前十字靭帯が断裂した直後は、痛みが強く足を着くことができなく、ケンケンしたり、足を挙げたままの状態になったりします。前十字靭帯が完全に断裂した場合、半数以上の症例で半月版損傷が併発すると言われています。
猫では落下や交通事故が原因の外傷により発症します。
多い犬種
ラブラドール・レトリバー
ゴールデン・レトリバー
バーニーズマウンテンドッグ
ジャックラッセルテリア
トイプードル
ヨークシャテリア など
治療法
鎮痛剤や抗炎症剤の投与による内科的治療と手術による外科的治療があります。
手術方法にはさまざまな方法があり、筋膜を用いて靱帯を再建する方法、他の靭帯や人工靭帯で前十字靭帯を代用する方法や、骨を関節が安定する形に切除する方法(TPLO)どが知られています。
骨折
原因と症状
交通事故や高い場所からの飛び降りた時、階段からの落下、フローリングの床で滑った後、飼い主さんが誤って踏んでしまう等、骨折のきっかけは日常と共にあると考えても良いでしょう。骨折直後は「キャイン!」と鳴いた後に、足を上げて痛がったり、患部をなめる、ひきずる、元気や食欲がなくなっている、トイレがうまくできない、などの行動が見られることが一般的です。よく折れてしまう場所としては、下顎、四肢、あばら、胸椎、頚椎、小指、脛骨、尾骨、背骨、などが好発部位です。
多い犬種
イタリアン・グレーハウンド
トイプードル
ポメラニアン
マルチーズ
ミニチュア・ピンシャー
チワワ など
治療法
骨折に気づいた場合はできるだけ早く動物病院で受診しましょう。時間の経過と共に骨折部位の変化が始まるため、元の状態への整復が困難になる傾向にあります。 骨折時の治療法は主にピンやプレートで直接固定する「内固定法」、外側からピンで固定する「創外固定法」、ギプスで固定する「外副子固定法」の3つがあり、骨折した場所やコンディションから治療法を選択します。
関節リウマチ
原因と症状
自分の体を守るはずである免疫機能が、間違って関節の組織を攻撃してしまい関節炎が起こることにより、手足の関節が腫れたり痛みが発生します。場合によっては発熱や食欲減退など全身症状を示すこともあります。
詳しい発生原因はまだ分かっていません。レントゲンを撮影すると骨が溶けたように見える「びらん性」の関節炎と、そのような変化を起こさない「非びらん性」の関節炎があります。 原因不明の発熱、食欲不振、不自然な歩き方、べた足歩行(本来地面に着かない手首やかかとが地面に着いた状態)が見られます。
多い犬種
ミニチュア・ダックス
チワワ
トイ・プードル
シェットランド・シープドッグ など
治療法
幾つかの内服薬で症状を緩和することが主な治療法です。場合によっては数種類のお薬を同時に服用することもあります。
炎症の緩和、免疫バランスの調整を目的として副腎皮質ホルモン剤や免疫抑制剤を使用します。非びらん性の関節炎(多くが特発性多発性関節炎)はこの治療に反応が良く、投薬による症状のコントロールが可能でしょう。一方、びらん性の関節炎(関節リウマチ)の場合、症状の改善は認められますが、数年かけて徐々に進行するケースが多いのが実情です。
変形性関節症
原因と症状
変形性関節症は、関節の軟骨と周囲の組織が、さまざまな要因で損傷し、痛みや関節の腫れ、こわばりなどが続き、最終的に関節が変形してしまう疾患です。原因は様々ですが、繰り返される運動の刺激や老化、肥満による関節への過負荷などが考えられています。
高齢犬によくみられる関節疾患の一つです。
多い犬種
ゴールデンレトリバー
ラブラドールレトリバー など
治療法
外科的治療では変形した部位の整復を行いますが、老化が原因の場合、関節の変形が著しい場合は完治させる事は困難です。
内科的治療では消炎鎮痛剤の投与やサプリメントなどによる痛みの管理が主な治療となります。また、自宅では体重管理や運動制限、居住環境の見直し等、症状に応じた対応で生活の質を落すことなく生活することができるでしょう。
椎間板ヘルニア
椎間板ヘルニアは整形外科ではなく神経疾患です
原因と症状
背骨(脊椎)と背骨の間にクッションの役割を果たす椎間板があります。激しい衝撃と共に椎間板が飛び出し、脊髄を圧迫することで痛みや神経症状が生じます。場合によっては神経麻痺を起こすこともあり、歩行が生涯できなくなってしまうこともあります。
ダックスフント、ペキニーズ、プードルなどは軟骨異栄養症犬種と呼ばれ、椎間板ヘルニアになりやすい犬種として知られ若齢での発症もよくみられます。
椎間板ヘルニアのグレード(程度)分類
(グレード1)軽度の痛み
脊髄の圧迫が軽度の場合は麻痺の症状は無く、痛みだけがみられます。よく見られる症状としては「抱っこした時にキャンと鳴く」「段差の上り下りを嫌がる」「背中を丸める」などがあります。治療は安静と内服薬が中心となります。非ステロイド性抗炎症剤やステロイド性抗炎症剤、神経に作用するビタミン剤の使用が選択されます。
(グレード2)軽度の不全麻痺
足に力が入りづらくなり、足先の感覚が鈍くなります。まだ自力で立ち上がり歩くことが出来る状態です。グレード1の症状に加えて、歩行時のふらつきが目立ち、足先がひっくり返るなどの症状も見られるようになります。 麻痺の症状は胸から腰にかけてのヘルニアの場合は後足だけ、首のヘルニアの場合には前足にもみられるので注意が必要です。内服薬と運動制限にて治療することで麻痺の症状が軽減することも多いですがある程度の時間が必要となります。
(グレード3)重度の不全麻痺
脊髄の圧迫がより重度になると、麻痺が強くなり立ち上がることができなくなります。赤ちゃんのハイハイの様な姿勢を取ります。このグレードでは外科的な手術の必要性が高まってきます。
(グレード4)重度の不全麻痺、排尿不全
グレード3に加え、神経の麻痺が後足だけでなく膀胱や肛門にまでおよび、排尿・排便の機能が障害されてしまいます。自力でおしっこが出せなくなったり、便が意図せず出てしまうようになってしまいます。麻痺による影響が全身状態にまで及んでくると緊急性が高くなります。
外科手術が必要になります。正確な診断と状況把握が必要な状態です。
外科手術では、脊髄を圧迫する椎間板を取り除くために、背骨を削って小さな隙間を作り、圧迫した部分を取り除きます。
(グレード5)重度の不全麻痺、排尿不全、深部痛覚の喪失
グレード4に加えて痛みの感覚自体が失われてしまった状態です。特に深部痛覚(皮膚表面からより深い部分の痛み)を感じることができなくなっています。両後肢だけでなく、尻尾の痛みもみとめられません。
治療は早期の外科手術が勧められます。たとえ手術したとしてもどこまで回復できるかが分からない非常に危険な状態となります。
日常の生活で可能な予防として・・・
・ソファーや階段などの段差の上り下りをさせない
・フローリングなどの滑りやすい床材を避ける
・足の裏の毛が伸びてくるワンちゃんは滑らないようにするために足の裏の毛を短くカットする
・腰に負担のかかりそうなジャンプや運動をさせない
・肥満にならないように注意する
進行性脊髄軟化症
椎間板ヘルニアの合併症として「進行性脊髄軟化症」という病気があります。強い圧迫を受けた場所を中心とし脊髄にに壊死が起こります。この病気の非常に怖いところは、壊死した場所が時間の経過と共に広がっていき、最終的に脳の一部である延髄にまで到達して呼吸ができなくなり死亡します。
椎間板ヘルニアの5-8%前後で発症するといわれてます。脊髄に強い圧迫を受けてから約5日以内に特徴的な症状「神経反射の進行的消失」「呼吸様式の異常」「激しい痛みや違和感」などが見られ、数日で死に至ります。
発症した場合、死亡率が100%で治療は主に痛みの緩和となっています。非常に強い痛みを感じている場合は安楽死も選択の一つとして考えられています。