犬の乳腺腫瘍
雌犬にとって最も一般的な腫瘍です。(雌犬の全腫瘍の約52%を占める)
避妊手術をしていない雌犬によく発生します。
原因
乳腺腫瘍の発生はホルモン依存性です。よって早期の避妊手術の実施により発生率を低下させることができます。
避妊手術の時期と乳腺腫瘍の発生率の関係
初回発情前に避妊手術を行った場合 0.05%
一回目と二回目の間に避妊手術を行った場合 8%
二回目の発情後に避妊手術を行った場合 26%
避妊犬に比べて未避妊犬の乳腺腫瘍の発生率は7倍の差があります。大型犬と小型犬の悪性腫瘍の発生率は大型犬の方が多く58%。小型犬では25%また、雌犬の約50%の乳腺腫瘍は良性であり、残りの50%は悪性。
乳腺腫瘍の一般的な遠隔転移の部位
「肺」「内外腸骨リンパ節」「胸骨リンパ節」、「肝臓」、「骨転移」が代表的です。
予後に影響するものとしては、「腫瘍の大きさ」「リンパ節浸潤」「遠隔転移」「組織学的グレード」などが挙げられます。
診断・治療
腫瘤自体を針生検することで、乳腺に関係した腫瘤なのかそれ以外の腫瘤なのかを判断することはできます。しかし、乳腺に関係した腫瘤と判明しても悪性と良性の判定まではできません。
乳腺由来が強く疑われる場合、治療と診断を兼ねて手術で摘出することが多いでしょう。手術方法も腫瘍の発生した場所や、大きさなどにより様々なバリエーションがあります。
手術の方法とその特徴
「肺」「内外腸骨リンパ節」「胸骨リンパ節」、「肝臓」、「骨転移」が代表的です。
予後に影響するものとしては、「腫瘍の大きさ」「リンパ節浸潤」「遠隔転移」「組織学的グレード」などが挙げられます。
方法 | 特徴 | 侵襲性 |
---|---|---|
腫瘤摘出術 | 乳腺組織から腫瘤をくりぬく方法。 | 低 |
単一乳腺切除術 | 乳腺の頭側、尾側を切断。単一の乳腺を切除する術式。 | 中程度 |
領域乳腺切除術 | 左右それぞれの頭側乳腺、尾側乳腺を切除する術式 | 中〜高 |
片側・両側乳腺切除術 | 乳腺組織の片側または両側を全て切除する術式 | 高 |
組織学的グレードは4段階に分類されます。(数字が大きくなるほど状況が悪いと考えて下さい。)
グレード | 組織学的特徴 |
---|---|
0 | 上皮内癌 |
I | 周辺間質への浸潤認めるも、血管内、リンパ節内浸潤は認められない |
II | 血管内、リンパ節内浸潤認め、さらに領域リンパ節転移が認められる |
III | 遠隔転移が病理学的に確認された病変 |
化学療法
抗がん剤(ドキソルビシン・シクロホスファミド、5-FU)の報告があります。しかし外科的治療に比べると有効性に乏しいと言われています。
そのほかに、「炎症性乳がん」という乳腺腫瘍がありますが、非常に悪性度が高く殆ど治療ができないタイプのものもあります。炎症性乳癌に関してはこちら【炎症性乳がん】へリンクを御覧下さい。
炎症性乳がん
犬の悪性乳腺腫瘍の約4%程度の症例で炎症性乳癌が認められます。発症年齢は5-13歳で平均9歳位と言われています。
通常の悪性乳腺腫瘍とは異なり炎症性乳癌を発見時には、約30%が播種性血管内凝固症候群(DIC)という全身性の出血徴候が見られ非常に危険な状態になっています。
炎症性乳癌は急速に拡大していく傾向が強いばかりではなく、複数の乳腺に発生し高率にリンパ管浸潤を認めます。そして腫瘍は通常の乳腺腫瘍よりも硬く、板状に形成されて筋肉に固着しています。熱感を持ち、赤く腫れ上がり、痛みや浮腫といった症状が見られます。
効果的な治療は無く、手術は出血のコントロールが困難で術後の回復も悪いことから禁忌とされています。
放射線治療で緩和効果が見られたという報告がありますが、効果的な治療ではありません。
非常に予後が悪いのが特徴です。
猫の乳腺腫瘍
猫の乳腺腫瘍は雌猫の全腫瘍中約17%を占めます。
皮膚腫瘍、造血器系(骨髄・リンパ節・脾臓)腫瘍に次いで3番目に多いと言われています。
原因
ホルモンが関係しています。避妊していないメスは避妊したメスの7倍の乳腺腫瘍発生率があります。さらに特徴的なのが、雌猫の乳腺腫瘍は80-90%が悪性です。(犬は良性悪性が50%50%です)
好発品種
シャム猫(他の品種に比べ2倍の発生リスク)やドメスティック・ショートヘアは発生率が高いと言われています。
避妊手術の時期と乳腺腫瘍の発生率の関係
6ヶ月齢以下で避妊手術をした猫では91%、1歳齢以下で避妊手術した猫では86%が未避妊の場合と比較して発生リスクが低下すると言われています。
猫の乳腺腫瘍の臨床徴候は皮膚や皮下織や腹壁に強い浸潤性を示し、固着を認める事が多く、全ての乳腺に発生する可能性があり、半数以上は複数の乳腺に存在している。
乳腺腫瘍の一般的な遠隔転移の部位
遠隔転移は肺と胸腔内リンパ節に認める事が多い。(他には胸膜、肝臓、横隔膜、副腎、腎臓)
予後に影響する物として、「腫瘍の大きさ」「リンパ節転移の有無」「リンパ管浸潤の有無」「組織学的グレード」などがあります。
治療
外科手術による摘出が第一選択です。猫の乳腺腫瘍の手術は腫瘍の大きさにかかわらず、積極的な切除(片側乳腺切除又は両側乳腺切除)が薦められています。しかし、全身麻酔の必要性、摘出範囲が大きくなるので体への負担が大きい等のデメリットも考慮しなければなりません。
化学療法はドキソルビシン、ドキソルビシン+シクロホスファミドを用いた治療報告がありますが、外科療法に比べると成績は良くありません。